イチイガシ

Quercus gilva

万葉集でよまれた草木, 季節-春

  • イチイガシ
  • イチイガシ
  • 花名
    イチイガシ
  • 学名
    Quercus gilva
  • 別名一位樫, ロガシ, 櫓樫
  • 原産地日本~東アジア
  • 開花場所墓地・寺院
  • 開花期4月, 5月

イチイガシとは

イチイガシ(一位樫、学名:Quercus gilva)は、日本~東アジア原産でブナ科コナラ属の常緑広葉高木です。若木の樹皮は灰褐色ですが、老木になると暗灰色となり不規則に剥落します。葉表は緑色で、裏面には黄褐色の星状毛が密生します。葉縁は上部にだけ鋭い鋸歯があり先端は尖っています。雌雄同株で春に開花します。
雄花は枝の付け根に尾状序雄を出してたくさんの小花を付けます。雌花は、枝上部の葉腋に花穂を直立させます。
どんぐりは長さ2cm、直径1cm程で、先端や殻斗に星状毛が生えています。殻斗は浅いお椀型で横縞があります。どんぐりでは珍しく灰汁抜きせずに生食できます。
樹木は神社の神木や県木に使われます。また、材は丈夫なので建材や船の櫓に用いられます。
属名のQuercus(クエルクス)はギリシャ語で「良質の材木」、種小名の 「gilva(ギルバ)」は「くすんだ黄色の」という意味です。
奈良時代にすでに存在し、万葉集で詠まれています。

万葉集で詠まれているイチイガシ


巻16-3885 長歌 乞食者詠・ほがひびと

【注釈】


乞食人には、道の傍らに居て物乞いする「カタイヒト=傍居(カタイ)人」と、祝い事を述べて芸をする「ホカヒヒト=寿(ホカヒ)人」の2種類です。
ホカイヒトは、芸の謝礼として食べ物を乞うて生活しており、今で言うところの「大道芸人」の走りのような存在です。奈良時代は人口の大多数が農民でその社会から脱落した人がホカイヒトとなっています。ここでは、鹿の衣装を着た芸人が、民衆の前で身振り手振りで「鹿の痛み、悲しみを述べる歌」を詠っています。鹿に寄せて為政者への皮肉、農民の悲哀も込められていたことでしょう。この長歌は、民衆を前に詠い舞う芸事なのでうたは次から次と突拍子もなく言葉の綾なども使い飛躍し続きますます。

【原文】


伊刀古 名兄乃君 居々而 物尓伊行跡波 韓國乃 虎神乎 生取尓 八頭取持来 其皮乎 多々弥尓刺 八重疊 平群乃山尓 四月 与五月間尓 藥猟 仕流時尓
...(以下に出てきます)
足引乃 此片山尓 二立 伊智比何本尓
...
梓弓 八多婆佐弥 比米加夫良 八多婆左弥 完待跡 吾居時尓 佐男鹿乃 来<立>嘆久 頓尓 吾可死 王尓 吾仕牟 吾角者 御笠乃<波>夜詩 吾耳者 御墨坩 吾目良波 真墨乃鏡 吾爪者 御弓之弓波受 吾毛等者 御筆波夜斯 吾皮者 御箱皮尓 吾完者 御奈麻須波夜志 吾伎毛母 御奈麻須波夜之 吾美義波 御塩乃波夜之 耆矣奴 吾身一尓 七重花佐久 八重花生跡 白賞尼

【読み】


いとこ(伊刀古) 馴染み(汝背)の君 (「さあさ皆さんお立合い」のような客引きの呼び込み)
居り居りて 物に行くとは 韓国の 虎神を 生け捕りに 八つ捕り持ち来 その皮を 畳(多々弥)に刺し 八重畳 平群の山に 四月と 五月間に 薬猟 仕ふる時に
...
あしひきの(足引乃) この片山に 二つ立つ 櫟(いちい、伊智比)が本(もと)に
...
梓弓 八つ手挟み(多婆佐弥) ひめ(比米)鏑(加夫良) 八つ手挟み 獣待つと(待跡) 我が居る時に さを鹿の 来立ち嘆かく たちまちに(頓尓) 我れは死ぬべし 大君に 我れは仕へむ 我が角は み笠のはやし 我が耳は み墨の坩 我が目らは ますみの鏡 我が爪は み弓の弓弭 我が毛らは み筆はやし(波夜斯) 我が皮は み箱の皮に 我が肉は み膾はやし 我が肝も み膾はやし 我がみげは み塩のはやし 老いたる奴 我が身一つに 七重花咲く 八重花咲くと 申しはやさね 申しはやさね


【意味】


さあさ皆さんお立合い 家に籠っていると、出掛けるのは辛い(つらい→からい)韓(から)国にでも行ってみなされ。
虎を八頭捕らえて持ち帰り その皮を八重に畳に張りつけて 平群の山に、鹿の角を取って薬猟りせんとするなり。


片山に二本立つイチイガシのもとに、


八本の弓矢を構えて鹿を待つと、我がいる時に 鹿がやってきて嘆く。我(鹿)はたちまち死ぬ身なり。どうせ死ぬなら大君の役に立ちたい。我が角は大君の御笠の飾りに、耳はみ墨の坩(るつぼ)に、目は澄んで鏡に、爪は弓の弓弭(ゆはず、弦をとめる道具)にもってこいさ。我が毛は筆に、皮は箱に張る皮に、肉や肝は切り刻んで膾(ナマス)に、胃は塩からの材料に、老いた我でも この身一つに 七重八重の花が咲くというものでございます。

名前が似ているイチイの木


名前が似ている針葉樹のイチイ(一位、学名:Taxus cuspidata)とは別科の植物です。

一般名:イチイガシ(一位樫)、 学名:Quercus gilva 、シノニム:Cyclobalanopsis gilva、分類名:植物界被子植物真正双子葉類ブナ目ブナ科コナラ属イチイガシ種、 別名:ロガシ(櫓樫)、分布地:日本~東アジア、生活環境:崖地、岩場、生活型:常緑高木、樹高:15~30m、樹皮:灰褐色(若木)、暗灰色で不規則に剥落(老木)、成長:やや遅い、葉形:倒披針形で先尖、葉表色:緑、葉裏色:黄褐色の星状毛が密生、葉質:やや硬い、葉縁:上部は鋭い鋸歯、下部は全縁、雌雄同株、花序形:雄花は長い尾状花序、雌花花序は雌花数個つく、花色:薄黄、開花期:4月~5月、果実:堅果、ドングリの形:楕円形で縦縞あり、殻斗:横縞があり長めのビロード状毛で被覆、果実の可食:灰汁がなく生食可、材:丈夫、用途:神社の神木、県木、公園樹、建築材、器具材(船の櫓)。


  • ブナ
  • ブナ
  • コナラ
  • コナラ
  • 花のタイプ
    その他
  • 花序
    尾状花序
  • 花冠
    花びら無し
  • 葉形
    倒披針形
  • 葉縁
    鋸歯状
  • 生活型常緑広葉高木
  • 花の色薄黄
  • 葉の色
  • 実の色
  • 高さ1500.0 ~ 3000.0 cm
  • 花径0.5 ~ 0.7 cm

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